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静岡地方裁判所 平成3年(ワ)35号 判決 1992年12月04日

原告

破産者株式会社興洋破産管財人

大橋昭夫

被告

島田信用金庫

右代表者代表理事

柴田三男

右訴訟代理人弁護士

小長井雅晴

主文

原告が、別紙債権目録記載の各債権を有することを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (原告の地位)

訴外株式会社興洋(以下「破産会社」という。)は、平成二年五月一一日午前一一時、静岡地方裁判所から破産宣告を受け、同時に原告がその破産管財人に選任された。

2  (破産会社が破産に至った経緯)

(一) 破産会社は、昭和二〇年ころ小松貫基が開始した造船関係の化学装置部品貯槽類の製作等の事業を母体として昭和二六年八月に設立されたタンク類の製造及び保守点検と原子力発電の溶接・建造物の製造及び据付等を主たる事業とする会社であり、大手企業からの工事受注を請け負って実績をあげていたが、過大な設備投資や、昭和四八年のオイルショックに始まる関連業界の不振等により資金面が逼迫し、昭和五五年四月には、工場財団を組成して日本興業銀行から資金援助を受けたものの、その後も、受注工事の工期及び代金回収期間が長期化したのに対して、資金回転を図るためダンピングによる原価割れ受注をするなど稚拙な経営政策に走ったことなどによってますます財務面が悪化し、売上実績も伸長せずこのような事態を粉飾決算で糊塗していたが、実態は、経営資金を金融機関からの過度の借入金に依存しており、企業体質は極度に脆弱化していった。

(二) 破産会社は、昭和六二年四月に、経営刷新と合理化を目的とし、後記のとおり、当時破産会社のメインバンクの立場にあった被告が就任を要請して、不動産業を営んでいた塚田好則(以下「塚田」という。)を代表取締役に迎え、以後、同人が経営に当たることになったが、粉飾決算によって隠されていた累積赤字が極めて多額であったことや、赤字解消を企図して短期間に収益を上げるべく新たに乗り出した不動産事業に無理を伴っていて、結局これが失敗に帰し、資金繰りに追われる状況の中で平成元年四月二〇日、不動産事業に関連する支払手形の決済のための資金調達ができず、第一回目の手形不渡り(金八億八八八二万円)を出し、かつ、その後の支払手形の決済資金を調達する見込みも立たない状態に至った。

(三) そこで、破産会社は、弁済禁止の保全命令を得ることによって第二回目の手形不渡りによる銀行取引停止処分を回避すべく、同年五月二九日、静岡地方裁判所に和議開始の申立てをし、同月三〇日、弁済禁止の保全命令を得たが、平成二年二月五日に、整理委員から和議開始を不相当とする意見書が提出されたので、同月一四日、和議開始の申立てを取り下げた。そして、その後の同年四月一〇日に債権者である株式会社福吉から静岡地方裁判所に対し、破産会社について破産宣告の申立てがなされ、前記1のとおり同年五月一一日午前一一時に破産宣告がなされた。

3  (否認の対象となる行為)

被告は、平成元年四月二四日、静岡地方裁判所に、破産会社を被告として、昭和六一年六月五日付の消費貸借契約に基づき、三億五〇〇〇万円の貸金請求の訴え(静岡地方裁判所平成元年(ワ)第一九八号事件)を提起し、右請求を認容した判決を債務名義として、平成元年六月二九日、静岡地方裁判所に、別紙債権目録記載の各債権(以下「本件債権」という。)を被差押債権とする各債権差押及び転付命令の申立てをした(別紙債権目録一記載の債権を被差押債権とする債権差押えの申立てにつき静岡地方裁判所平成元年(ル)第二二九号、右債権についての転付命令につき同裁判所同年(ヲ)第一五八号、同目録二記載の債権を被差押債権とする債権差押えの申立てにつき同裁判所同年(ル)第二三〇号、右債権についての転付命令の申立てにつき同裁判所同年(ヲ)第一五九号、同目録三記載の債権を被差押債権とする債権差押えの申立てにつき同裁判所同年(ル)第二三一号、右債権についての転付命令の申立てにつき同裁判所同年(ヲ)第一六〇号、同目録四記載の債権を被差押債権とする債権差押えの申立てにつき同裁判所同年(ル)第二三二号、右債権についての転付命令の申立てにつき同裁判所同年(ヲ)第一六一号)。そして、同日、いずれの申立てについても、各債権差押及び転付命令(以下「本件転付命令等」という。)の発付を得たことにより、本件転付命令等は、そのころそれぞれの債権の第三債務者に送達された。

4  (支払の停止及び被告の悪意)

前記2の(二)及び(三)のとおり、破産会社は、支払手形の決済資金を調達する見込が立たないために、弁済禁止の保全命令を得ることによって、第二回目の手形不渡を回避しようとして、和議開始の申立てをしたものであるから、右申立てをした平成元年五月二九日には支払停止の状態にあったものというべきである。

ところで、被告は、昭和五三年ころ破産会社との取引を開始し、その後破産会社のいわゆるメインバンクの役割を果たすようになって、資金面で支援してきたのみならず、昭和六一年ころには、被告の常務理事であった冨岡生朗を副社長として破産会社に派遣し、昭和六二年には、被告の主導のもとに破産会社の代表取締役として塚田を迎え入れるなどして、破産会社の経営に深く関与していたのであり、破産会社が、巨額の累積赤字を抱えて経営が悪化し、資金繰りに苦しんでいる状態であることを知悉していたし、右のような破産会社が和議開始の申立てをした事情についても、その当時これを了知していた。

したがって、被告は、破産会社が支払を停止したことを知りながら、前記3の各債権差押及び転付命令の申立てをしたものであり、本件転付命令等は、破産法七五条、七二条二号に所定の行為に該当する。

5  (債権者を害する行為及び被告の悪意)

仮に、本件転付命令等が破産法七二条二号に該当する行為に当たらないとしても、右4のとおり、被告は、破産会社の経営が悪化している状況をことごとく知りつくしており、本件転付命令等が他の破産債権者を害するものであることを知って、その申立てをしたものであるから、本件転付命令等は、破産法七五条、七二条一号に所定の行為に該当する。

6  (否認権の行使)

原告は、被告に対し、平成三年二月七日に送達された本件訴状により、本件転付命令等を否認する旨の意思表示をした。

よって原告は、被告に対し、本件債権がいずれも原告に帰属することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2(一)  同2の(一)のうち、破産会社の金融機関からの借入金が過度であったことは否認し、その余は認める。

(二)  同(二)のうち、昭和六二年四月に塚田が破産会社の代表取締役に就任して経営に当たることになったこと、破産会社の累積赤字が極めて多額であったこと、破産会社が赤字解消を企図して新たに乗り出した不動産事業に無理が伴っており、これが失敗したこと、破産会社が平成元年四月二〇日に支払手形の決済のための資金調達ができず、第一回目の手形不渡り(金八億八八八二万円)を出したことは認め、その余は否認する。

なお、破産会社の第一回目の手形不渡りに係る支払手形は、三通(手形金額合計四五〇〇万円)を除いては、手形交換所を通さず、破産会社にとっても当日支払呈示がされるかどうか定かとはいえなかった個別取引によるものであって、これらの個別取引に係る手形が破産会社の予想を超えて一時に支払呈示されたために、破産会社の緊急の資金手当が及ばず、不渡りとなったものである。破産会社は、右手形不渡りを出した平成元年四月二〇日から和議開始の申立てをした同年五月二九日までの一か月以上の間順調に支払手形の決済をしており、決済資金の調達をする見込がない状態ではなかった。

(三)  同(三)のうち、破産会社が和議開始の申立てをしたのが、弁済禁止の保全命令を得ることによって、第二回目の手形不渡りによる銀行取引停止処分を回避するためであったことは否認し、その余は認める。

破産会社が和議開始の申立てをしたのは、余力のあるうちに会社の再建をしようとしたためである。

3  同3は認める。

4  同4のうち、被告が昭和五三年ころ破産会社との取引を開始し、その後破産会社のいわゆるメインバンクの役割を果たすようになって、資金面で支援してきたこと、昭和六一年頃に被告の常務理事であった冨岡生朗を副社長として破産会社に派遣したことは認め、その余は否認する。

なお、和議開始の申立てをしたこと自体が支払停止に該当するものではない(破産会社のした和議開始の申立ては、その後和議廃止の決定、和議取消の決定又は和議不認可の決定に至らずに、破産会社がこれを取り下げたのであるから、和議法一〇条によって、右和議開始の申立てが破産の申立て又は支払の停止とみなされる場合にも当たらない。)。また、右2の(二)のとおり、破産会社は、右手形不渡りを出した平成元年四月二〇日から和議開始の申立てをした同年五月二九日までの一か月以上の間順調に支払手形の決済をしていたし、和議開始の申立てをしてからも、資金不足を理由とする手形不渡りを出すことなく、平成二年五月一一日の破産宣告に至っているのであるから、右和議開始の申立て当時、支払停止の状態にあったものとは認められない。

5  同5は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1の事実、同2の(一)の事実(ただし、破産会社の金融機関からの借入金が過度であったことは争いがある。)、同(二)のうち、昭和六二年四月に塚田が破産会社の代表取締役に就任して経営に当たることになったこと、破産会社の累積赤字が極めて多額であったこと、破産会社が赤字解消を企図して新たに乗り出した不動産事業に無理が伴っており、これが失敗したこと、破産会社が平成元年四月二〇日に支払手形の決済のための資金繰りができず、第一回目の手形不渡り(金八億八八八二万円)を出したこと、同(三)のうち、破産会社が同年五月二九日に静岡地方裁判所に和議開始の申立てをし、同月三〇日に弁済禁止の保全命令を得たが、平成二年二月五日に整理委員から和議開始を不相当とする意見書が提出されたので、同月一四日、和議開始の申立てを取り下げ、その後、同年四月一〇日に破産会社の債権者である株式会社福吉から静岡地方裁判所に対し破産会社について破産宣告の申立てがなされ、同年五月一一日に破産宣告がなされたこと、並びに同3の事実は当事者間に争いがない。

二原告は、破産会社が和議開始の申立てをした平成元年五月二九日には、破産会社は支払停止の状態にあったと主張するので、この点について検討する。

1  <書証番号略>、証人塚田好則、同川本明弘の各証言及び弁論の全趣旨によれば、

(一)  破産会社は、その経営悪化を糊塗するために、かねてから、本来の帳簿のほか、対銀行用、対税務署用など、虚偽の計数を記載した複数の帳簿を作成して粉飾決算を行っており、そのような状態は、塚田が代表取締役に就任した昭和六二年四月以降もほとんど変らず、対銀行用等の表向きの決算報告では、昭和六二年七月期においては約二六億円の売上高と約六八〇〇万円の経常損失を、昭和六三年七月期においては約三四億円の売上高と約二五〇〇万円の経常利益を、平成元年一月の中間決算においては約一八億円の売上高と約一七〇〇万円の経常利益をそれぞれ計上しているが、和議開始の申立て後に整理委員が行った調査の結果、昭和六三年七月期の売上高は約二一億円、経常損失は約四億円に、平成元年七月期の売上高は約八億円、経常損失は約一五億円に達することが判明し、さらに、平成元年七月末当時において、破産会社の借入金は約一三〇億円に、流動負債は約一八〇億円に上り、約七三億円の債務超過状態にあったことが明らかとなり、和議開始の申立てをした当時においてもほぼ同様の債務超過の状態であったこと、

(二)  破産会社は、右のような財務状況に加え、塚田が代表取締役に就任してから、無理な不動産事業を展開したこともあって、資金繰りに苦しんでいたところ、平成元年四月二〇日に第一回目の手形不渡りを出した後、塚田がその個人的信用を頼りに資金の調達に奔走した結果、合計約四億四〇〇〇万円余りの支払手形、小切手の決済を行い得たが、およそ一か月後には、それも行き詰まり、同年五月三〇日に三億三八五〇万円の、同月三一日に四億四八九九万円の支払手形、小切手の決済を控えて、その資金を調達する目途が立たない状態の中で、同月二九日に和議開始の申立てをし、同月三〇日に弁済禁止の保全命令を得た結果、同日以後の支払手形、小切手については右保全命令による不渡りとなって銀行取引停止処分を免れることができたこと、

(三)  破産会社が和議開始の申立てを取り下げ、弁済禁止の保全命令が失効した平成二年二月一四日以降、破産宣告の申立てがなされた同年四月一〇日までの間には、破産会社に対する支払手形、小切手の支払呈示はなく、また、この時期以降、破産会社が破産宣告を受けるまでの間、破産会社が平成元年四月二〇日に不渡りとし、あるいは弁済禁止の保全命令によって支払を免れていた手形、小切手等に係る債権を弁済したことはなかったこと、

(四)  破産会社においては、第一回目の手形不渡りを出した平成元年四月二〇日の直後に、債権取立業者が事務所を占拠するという事態があり、また、従業員らが労働組合を結成して、未払の労働債権に充てるために、破産会社の債権を独自に回収し、あるいはその管理のもとに仕掛品を完成させる作業が行われるなど、会社としての正常な運営が行われていない状態で和議開始の申立てに至り、同年六月末ころには、総数で七二名いた従業員が七名を残して他は解雇され、その後は、同年九月から一〇名足らずのパートタイムの従業員により他社の下請を内容とする小規模な業務が一時的に行われたにすぎないこと、

以上の事実を認めることができる。

2  破産法七二条二号の「支払停止」とは、弁済能力の一般的、継続的な欠缺を外部に表示することを意味するものと解される。しかるところ、右1の各事実及び右一の争いのない各事実によれば、破産会社は、和議開始の申立てをした当時、弁済期を目前に控えた七億八〇〇〇万円余りの手形、小切手債務の弁済の目途が立たず、かつ、その後は保全命令により、あるいは債権者からの積極的な取立行為がなかったために資金不足による手形不渡りを出さずに経過しただけであって、弁済期の到来した債務を弁済する資金を有していた訳でもなく、現に、保全命令失効後もその弁済をしたことがなかったことが認められるから、和議開始の申立てをした当時、既にその弁済能力を一般的、継続的に失っていたことが明らかである。また、破産会社は、和議開始の申立てをしたことにより、弁済禁止の保全命令を得て、手形不渡りによる銀行取引停止処分を免れていながら、その後間もなく従業員のほぼ全員を解雇して従前と同規模程度の事業を継続する可能性を自ら喪失させており、現にその後はごく小規模の営業を一時的に行ったに過ぎないことに鑑みて、右の和議開始の申立ては、会社の再建を図るものではなく、右保全命令により当面の銀行取引停止処分を回避する目的で行ったものであることが容易に推認されるところ、このことと、和議開始の申立て当時、既に第一回目の手形不渡りを出し、これが原因となって正常な会社経営ができない状態に追い込まれていたこととを併せ考えれば、和議開始の申立てをした時点において、その弁済能力の一般的、継続的欠缺を外部に表示していたものと認めることができる。そうすると、破産会社は、和議開始の申立てをした当時、既に支払停止の状態にあったものというべきである。

なお、被告は、破産会社の第一回目の手形不渡りに係る支払手形は、大部分が手形交換所を通さない個別取引によるものであって、破産会社の予想を超えて一時に支払呈示されたために、破産会社の緊急の資金手当が及ばず、不渡りとなったものであるとか、右手形不渡りを出した平成元年四月二〇日から和議開始の申立てをした同年五月二九日までの一か月以上の間、順調に支払手形の決済をしており、決済資金の調達をする見込がない状態ではなかったとか主張するが、仮に、第一回目の手形不渡りに係る支払手形の大部分が手形交換所を通さない個別取引によるものであってその支払呈示が破産会社の予想を超えていたとの事実が存在するとしても、かかる事実は、破産会社が和議開始の申立てをした当時既に支払停止の状態にあったことを覆すに足りないし、また、破産会社が第一回目の手形不渡りの後、和議開始の申立てをした同年五月二九日まで支払手形の決済をしていたからといって、同日において手形、小切手の決済資金の調達をする見込がない状態ではなかったといえないことは、前記の認定のとおりである。さらに、被告は、破産会社が、和議開始の申立てをしてからも、資金不足を理由とする手形不渡りを出すことなく、平成二年五月一一日の破産宣告に至っているのであるから、右和議開始の申立て当時、支払停止の状態にあったものとは認められないとも主張するが、右の間に資金不足を理由とする手形不渡を出さなかった事情も前記のとおりであって、これがため、和議開始の申立て当時、支払停止の状態にあったとの認定が左右されるものとはいえない。

三そこで、被告が、請求原因3の債権差押及び転付命令の申立てをした平成元年六月二九日当時、破産会社が支払停止の状態にあったことを知っていたかどうかにつき検討する。

1 請求原因4のうち、被告が昭和五三年ころ破産会社との取引を開始し、その後破産会社のいわゆるメインバンクの役割を果たすようになって、資金面で支援してきたこと及び昭和六一年頃に被告の常務理事であった冨岡生朗を副社長として破産会社に派遣したことは当事者間に争いがないところ、右事実、前記一の争いのない事実、<書証番号略>、証人塚田好則、同川本明弘の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、

(一)  被告は、清水支店を設立した昭和五三年一一月ころから破産会社との取引を開始し、次第にこれを拡大して、破産会社のいわゆるメインバンクの役割を果たすようになり、破産会社に対する昭和六二年一月時の融資残高は四五億円、昭和六三年一月時の融資残高は五〇億円、平成元年一月時の融資残高は五九億円となっていたこと、

(二)  塚田の、破産会社代表取締役就任は、被告の理事である高松正人が、横須賀産業株式会社に、破産会社の支援とともに経営者の派遣を要請したことを契機とするものであり、右要請後、曲折を経て、最終的には横須賀産業株式会社の関連会社である株式会社幸建企画の代表取締役であった塚田が、被告の求めに応じて破産会社の代表取締役に就任したものであること、

(三)  被告は、破産会社から受ける決算報告にかねてから疑いを持ち、破産会社の経理内容を把握するため、昭和六一年四月には、副社長として被告の常務理事であった冨岡生朗らを、また、塚田が代表取締役に就任した時には、監査役として被告の監事であった三輪多次郎をそれぞれ派遣しており、さらに昭和六三年三月には、被告の紹介により小林嘉夫が破産会社の経理担当の常勤の取締役に就任したこと、

(四) 塚田は、破産会社の代表取締役に就任した後、前記二の1の(二)のような事情で破産会社が資金繰りに苦慮している事情を間断なく被告の理事である高松正人に訴えて、被告からの資金援助を求めており、また、和議開始の申立て前には、被告の理事長五條正一、常務理事小塩昭吾及び高松正人らに、和議開始の申立てをすることを相談し、また、右申立てをした平成元年五月二九日も被告本店を訪ねて、右申立てをした旨を小塩昭吾、高松正人らに報告したこと、

(五)  小塩昭吾は、同月三〇日、右和議開始申立事件につき、静岡地方裁判所に出頭して、審尋を受け、その後、弁済禁止の保全命令がなされたこと、

以上の事実を認めることができる。

2 右事実によれば、被告は、塚田が代表取締役に就任する以前から破産会社のいわゆるメインバンクの地位にあり、資金の融資の面で破産会社と密接な繋がりを有していたのみならず、取締役副社長を派遣し、さらには事実上その代表取締役を交代させることができる程度にまで、破産会社の経営に深く関与していたこと、また、被告は、塚田が代表取締役に就任した後は、理事の高松正人が塚田から破産会社の資金繰り状況について報告を受け、援助を求められており、破産会社が資金繰りに苦慮していたことを知悉していたことを認めることができ、さらに、被告は、破産会社が和議開始の申立てをする前に、塚田からそのことについて相談を受け、申立ての直後にもその報告を受けるとともに、常務理事の小塩昭吾が裁判所の審尋を受けているのであるから、右二の2のとおり、破産会社が、和議開始の申立てをした平成元年五月二九日当時、弁済期を目前に控えた七億八〇〇〇万円余りの手形、小切手債務の弁済の目途が立たず、弁済禁止の保全命令を得なければ、銀行取引停止処分を受ける事態となること、及び破産会社が第一回目の手形不渡りを出したことが原因となって既に正常な会社経営ができない状態に追い込まれていたことをいずれも知っていたものと推認することができる。

そうすると、被告は、破産会社が和議開始の申立てをした時点において、支払停止の状態にあったことを知っていたものと認められる。

なお、塚田の代表取締役就任以前から破産会社が対銀行用を含む数種類の帳簿を作成していたこと及び被告が破産会社から受ける決算報告について疑いを抱いていたことは、前記二の1の(一)及び三の1の(三)のとおりであり、これらの事実と証人川本明弘の証言とによれば、被告は破産会社の正確な資産負債及び損益の状況を充分把握していなかったことが窺われる。しかし、被告が破産会社から受ける決算報告について疑いを抱き、これを必ずしも信頼していなかったことも右のとおりであり、さらに、前記のように、破産会社が資金繰りに苦慮しており、かつ、和議開始の申立てをした当時、弁済期を目前に控えた七億八〇〇〇万円余りの手形、小切手債務の弁済の目途が立たず、弁済禁止の保全命令を得なければ、銀行取引停止処分を受ける事態となることは知っていたと認められるのであるから、たとえ、被告が破産会社の正確な資産負債及び損益の状況を充分把握していなかったとしても、破産会社が支払停止の状態にあったことを知っていたとの認定の妨げとなるものとはいえない。

四以上によれば、被告は、破産会社が支払を停止したことを知りながら、請求原因3の各債権差押及び転付命令の申立てをしたものであり、本件転付命令等は、破産法七五条、七二条二号に所定の行為に該当して、原告においてこれを否認することができるものというべきである。

そして、原告が被告に対し、平成三年二月七日に送達された本件訴状により、右否認権を行使する旨の意思表示をしたことは記録上明らかであるから、右否認権行使の結果として、本件債権はいずれも原告に帰属することとなり、その旨の確認を求める本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がある。

五よって、本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官荒川昂 裁判官石原直樹 裁判官森崎英二)

別紙債権目録

一 破産者株式会社興洋が、金額金一五〇〇万円の約束手形の不渡処分を免れるために、第三債務者株式会社静岡銀行が加盟する清水手形交換所に提供させる目的で、平成元年三月二八日、右第三債務者(三保支店扱い)に預託した金一五〇〇万円の金員の返還請求権

二 破産者株式会社興洋が、金額金一〇〇〇万円の約束手形の不渡処分を免れるために、第三債務者静岡信用金庫が加盟する清水手形交換所に提供させる目的で、平成元年五月二五日、右第三債務者(清水支店扱い)に預託した金一〇〇〇万円の金員の返還請求権

三 破産者株式会社興洋が、金額金二〇〇〇万円の約束手形の不渡処分を免れるために、第三債務者静清信用金庫が加盟する清水手形交換所に提供させる目的で、平成元年五月一六日、右第三債務者(清水支店扱い)に預託した金二〇〇〇万円の金員の返還請求権

四 破産者株式会社興洋が、金額金二〇〇〇万円の約束手形の不渡処分を免れるために、第三債務者株式会社協和銀行が加盟する静岡手形交換所に提供させる目的で、平成元年五月二三日、右第三債務者(静岡支店扱い)に預託した金二〇〇〇万円の金員の返還請求権

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